『人知れず向かいあう』

第10話 特別だから
「圭介くん、こんな所にいたんですね。探しましたよ」
にこりと笑って言う須釜に山口も小田も怪訝な顔で彼を見た。
殺し合いはもう始っていた。最初はあの教官の所為であまり感じていなかった恐怖。
けれど今はそれをありありと感じている。
目の前で横山が殺されたのを見たからだ。
そのため、二人は人があまり来ないであろう此処に隠れていた。
殺した人間は見たことは有る奴だった。
金色の髪がやたらと目立つ関西弁の陽気な男。
けれど、選抜で見た時とは違い、狂気を纏っていた。
陽気な所などかけらも無く、横山の支給武器だったらしいワイヤーで首を締めて殺していた。
うめき苦しむ彼をよそに何の表情も無く一人の人間を締め殺す金髪の姿は妙に恐くて。
感情の映らない顔が。何もかもに絶望し、何もかもを憎んで、けれど壊れたように表情だけが浮かばない。
まるで能面のようだった。絶命するとわかるとその支給武器をそのままにして立ち去った。
そこから彼等は横山の支給武器だったのだと思った。
「何で…須釜…?」
一瞬反応が遅れる。
「どうしたんですか?」
須釜が訝しそうに訊く。
「圭介くん一緒に行動しませんか?勿論小田くんも」
「え?」
二人は驚いたように顔を見合わせる。
「お前は乗ったんじゃないのか?」
「何故です?」
「だって、腰のそれ…」
そこには須釜に支給された当りの部類に入るS&Wマグナム11口径。
「これは支給武器ですが、護身用に一応持っているだけですよ?」
けれどあんなことを見た後では容易に他人を信じられる物でもなかった。
自分達二人を除いては。



何時の間にか、自分は我を忘れていた。
気が付くと血の海で。
岸壁に血渋きが飛び散り、自分も返り血を僅かながら浴びていた。
死んでいるのは自分が探しに来た二人だった。
一緒に居たいと思った人たちだった。
けれど自分はその支給武器で彼等を殺してしまった。
「僕が…圭介くんを?小田くんを?」
こんなこと嘘だと言って叫びたかった。
信じたくなかった。
自分が殺してしまった事を。
あの後ちょっとした口論になった、何を言っても二人は自分を信じてはくれなかった。
そのちょっとした行き違いに腹を立てて自分は殺してしまった。
まるでそう子供のかんしゃくだ。
「嘘…こんな筈ではなかったのに…僕は…」
須釜は銃をこめかみに当てた。
「もうこうするしかないんですよね?」
だって僕は貴方たちを、いえ、あなたを殺してしまったのだから。


本当なんですよ。信じてください。
僕には特別だったんです。
圭介くん貴方が。
好きとか愛しているとかそんなものとは違うんです。
でも確かに貴方は僕の特別だったんです。
だから、ごめんなさい。
【残り34人】

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