『人知れず向かいあう』

第12話 あの日見た夢はずっと今も
小さい頃からずっと父さんみたいなGKになるのが夢だった。
だからずっと頑張ってきたんだ…。ちょっとだけ掴みかけた夢だった。
でもそんなもの今となってはどうしようもなく…。
こんなものに選ばれてしまった。俺はもう逃げられないんだ。


ガサッ。ひとり山道を進む小提の耳に聞こえてきた葉のさざめく音。
「誰だ?」
小提がおそるおそる茂みに向って放った言葉に、ガサリと姿を現したのは黒川だった。
「小提…?」
「…黒川…」
「翼…見なかったか?」
「翼?……椎名のことか?見なかったけど…」
「…そうか…」(どこいったんだ?翼の奴…)
そう言って去ろうとする黒川に思いがけず言葉を発した。
「黒川」
「ん?」
振り返る黒川に、色を無くした小提は慌てて取り繕う。
「あ、いや…なんでもない…」
(黒川を引き止めてもどうにもならないし…)
心細いというのは小提の本音だったであろうが、
あまり親しくない相手と居ても息苦しいだけで、
そしてなにより今は殺し合いの最中である。
「じゃあな、小提」
「ああ」
そう言った瞬間だった。
黒川の投げた時限爆弾で一瞬のうちに周りの木々ごと小提諸とも消し飛んでしまった。
「……小提、油断大敵だぜ」
そう言ってどこかに消えた。






マムシ…マムシ…マムシ…。
俺、一体何人殺したんやろうな?
二日目の昼頃だった。
薄暗い森の中で、間宮の遺体を安置してある場所へとシゲは戻ってきていた。
全身返り血でどす黒く染まって。
まだ禁止エリアになっていないこの場所。後数十分で、禁止エリアになる。
シゲは間宮を抱き上げると別の場所へと移動した。
横山を絞殺したあと、他に何人か殺した。
山の中に隠された数丁の拳銃も全てシゲが回収していた。
殺すことでしか怒りをぶつける術が無くて。
間宮の死体を抱き上げ、シゲは言う。
「好きや。お前だけやねん。俺の心が反応するんは…。せやから、ホンマは死んでも
ええって思うとるんや。お前んとこはよ逝きたいって…」
(けど、政府の奴等に復讐終わってからでも遅うないよな?)
大切だった人を失ってそれでも生きて行かねばならなくて、
けれども狂ったフリでもしていなければ居られない。
正気のままだったら、きっと本当に狂ってしまうから。
だからシゲは狂人のフリをすることで発狂するのを防いでいる。

「なんで俺なんかかばったりしたんや?そうやなかったら、こんな痛くなかったんや…」
(俺が撃たれた方が痛なかったんや)
シゲが間宮を横たえた時だった。
ガサリと音がする。シゲは銃を構えて振り返った。
ナタを持ってはいたが襲おうとした訳ではない伊賀に、問答無用で発砲した。
崩折れる伊賀を冷めた目で見るだけで表情のないシゲ。
こんなものかと思う。
(もう、痛まへんのや。お前やないのなら、誰が死んでも)
「人間やのうなってしもうたんかな?俺…」



「木田さん、あれ上原くんじゃないですか?」
最初にそれを見つけたのは将だった。
「ん?…ああ、そうみたいだな」
「何しているんでしょうね?」
「行ってみるか?」
「はい」
木田と将が上原の居るあたりに向うと、
上原は泣きながら桜庭の遺体を綺麗にしている所だった。
「上原くん?」
将が声を掛けると、びくりと肩を震わせ振り返った。
「……カザマツリ…キダ…」
「一体何が…桜庭くん…もしかして、死んで…」
「ああ…俺が、殺した…」
しゃくり上げながら上原が言う。
「えっ…どういうこと?」
「これが俺の支給武器だった。玩具だと思っていたんだ。
ハズレ武器だって…。説明書にも人が殺せるなんて書いてなくて…」
ずいっとハンドガンを将と木田に見えるように差し出した。
「俺、…オレ、人殺しだ…殺したかった訳じゃないのに…
オレが、桜庭を殺し…うっ…うっ…」
泣き崩れる上原に、将も木田も言葉を失う。
親友をその手にかけてしまった。しかも、殺すつもりも微塵も無くて。
それを思うと、上原が痛ましくて仕方ない。
支給武器のミニチュア拳銃。
玩具と思っても仕方のないくらい小さく、簡素な作り。
けれど、それは列記とした本物のハンドガンだった。
「オレ、どうすればいいんだ?なぁ、カザマツリ、キダ…オレ…どうすれば…」
「上原…」「上原くん…」
(何も言ってあげる言葉が見つからないよ…どうしよう…)
「やっぱり、俺も逝った方がいいのかな?」
上原はミニチュア拳銃をこめかみに押し付けた。
泣きながら、そして可哀想なくらい震えたまま、その引き金を引いた。
「上原くん!!」
「上原!!」
ハッとした時はもう遅くて。
桜庭の遺体の上に折り重なるようにして、上原が倒れこむ。
「木田さん…僕っ…」
木田は将を抱きしめた。
「お前の所為じゃないから…」
「木田さんっ…」
将は木田の腕の中で泣いた。



ホントはずっと一生サッカーと共に生きていけると思っていたのに。
でも、もう無理なんですよね。木田さん。僕たちもう…。

「風祭、それでも俺たちは生きていこう。生きていられるうちは」
「はい。そうですね。木田さん…」
(貴方が傍にいてくれれば僕はまだ強く居られる…)
木田の袖を将が軽く引っ張る。
「ん?」
気付いた彼は将の方へ視線を落とす。
「好きです」
「俺も、好きだよ」
(付き合ってまだ1ヵ月ちょっとだった。けれど、
ここでもうじき永遠の別れが待っているなんて、皮肉だな…)
二人は口付けを交わした。多分コレが最後の。



どうして死ねましょや?
こんなに愛しい人、傍に居るのに。
こんなに好きなのに。
たとえ間違った「恋」でも。
ねぇ、神様。
僕たちまだ『生きていたい』のです。
あの日憧れたように、まだ憧れているのです。
それをホンモノにしたくて。
ユメをゲンジツにしたくて。
『生』を望んではいけませんか?
【残り27人】

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