『人知れず向かいあう』 第十六話 震える肩を抱き締めて はぁ…はぁ…はぁ。 荒く呼吸を繰り返す二つの音が、その周囲の静寂を破っていた。 向かい合った小岩と椎名はお互い酷い怪我をしていた。 それは二人がやり合ってつけた傷である。 日生を殺したあと、奪ったウージーサブマシンガンは、 高山を殺った時既に弾切れをしていた。 その為、小岩はその場所にサブマシンガンを捨ててきていた。 アイスピックVSサバイバルナイフでは、 どうも小岩の方に分があるようであったが、椎名も負けてはいなかった。 「俺はまだ死ぬわけにはいかないんだよ!」 「俺は…もう、後戻りは出来ないんだ!」 (光っ君を殺した…渋沢も…二人もこの手にかけて後戻りなんて出来るはずねぇ) 再び宿った鋭い光に、一瞬怯んだ椎名に、小岩は突進した。 倒した椎名に馬乗りとなり、サバイバルナイフを思いっきり振り下ろした。 何度も何度も心臓を突き刺す。 小岩は椎名が冷たくなるまで、狂ったようにその行動を繰り返していた。 「…本当は、止めて欲しかったんだ…けど…」 (まただ。俺は…) ポロポロと死体となった椎名の上に涙を落とす。 そうすることで、彼が返ってくるわけでもないというのに。 「ふーん、止めて欲しいんだ?…じゃあ、俺が殺してやるよ。バイバイ」 突然聞こえて来た声に振り返ると、微笑む赤毛の少年の姿。 それが小岩の最後に見た人間。 音も無く崩折れる小岩の体。 それを冷めた目でみやって、設楽はまた薄く微笑む。 (…はぁ、おっかねぇ…。先刻からピストルの音は聞こえるしよ…。 それに、放送でもう相当人が死んでるってことだよな?…俺を入れて十七人? 若しくはそれ以下ってことも有り得たり…。死にたくねぇ…) ふらふらと鳴海が歩いていた。 森の中を当ても無く。 ただ、誰かに見つからないかと禁止エリアのことだけを気にして。 (殺したくはねぇ…当たり武器だけどよぉ。…人殺しなんて真っ平ご免だ。 ましてや、俺が死ぬのなんて考えたくもねぇ) そんな時だった。話声が聞こえて来た。 話しているということはつまり複数人であるということだ。 鳴海は一握の希望を持ってそちらの方へと向かった。 落葉樹の隙間から覗くと、其処に居たのは郭、真田、若菜と見慣れない金髪の男。 どうやらそいつの言葉は関西弁のようである。 (関西選抜の奴か?…見覚え無ぇけど…) 「で、これからどうするかだけど…」 郭の言葉に鳴海は出て行こうと思った。 しかし、それは叶わなかった。 パンっ。 頭に直接弾丸を撃ち込まれ、鳴海は即死していた。 鳴海を殺した奴は郭たちに気が付いたのか、そちらに行く。 彼を見た直樹がこう呼んだ。 「シゲ!!!」 「「「えっ?」」」 郭たちがハモるように疑問の声を上げる。 パン! 「「英士!」」「シゲ!?」 シゲは冷めた目で郭を撃った。 背中の真ん中、ちょうど表なら心臓に掠る位置。 倒れた英士に駆け寄る結人と一馬。驚愕する直樹。 「よくも英士を!」 「一馬よせ!」 結人の声に耳を貸さず、怒りで我を忘れた一馬がシゲの胸ぐらを掴む。 パン! 「ぐぁっっ!!」 「一馬ぁ!!」 一馬の悲鳴と結人が叫んだのは同時で。 コルトピースメーカー。 しかも弾は銀の特別仕様で。 ずるりと崩れ落ちる一馬を足蹴にしたシゲに、今度は結人までもが シゲに向かおうとすると、容赦なくそれは火を噴いた。 「シゲ!!」 「残ったんは、お前だけやな、直樹…」 「何でや?何で…。シゲ…」 「こうするしかないんや。俺が、全て終わらしたる…」 「シゲ…。お前、痛ないんか?」 「直樹、ほなな。マムシに逢うたらよろしゅうな」 「シゲ!」 叫んだ時には、もう撃たれていた。 「せやから、殺すしかないんや。それしか出来んねん…」 【残り9人】 |