『人知れず向かいあう』 第6話 進む道に貴方は居ない じゃりっじゃりっ……。 土がこすれ足音が響く。 ポタリポタリ。 赤い雫が地面に落ちる。 じゃりっ。 その足音はやがて止まり、とさりと小さな軽い音を立てて何かを地面に下ろす音がした。 『マムシ…何で、俺なんかを庇ったりするん?』 その声は独白にも似ていた。 シゲは、間宮の遺体に話しかける。 そうしていないと今にも心と体がばらばらになりそうだったからだ。 一番愛しい人。この世で一番、自分自身なんかより余ほど大切だった人。 ただ好きだというには軽い気がするが愛と言うほど強くは無い。 独占欲にも似た感情。いや、まんま独占欲なのかもしれない。けれど。 自分にとって…シゲにとってはかけがえの無い変わりなんて居ない唯一無二の最愛の人だった。 自分が他人を好きになれる人間だとは思っていなかった。 親の愛情がどういうものか触れたことが無いから。 けれど初めて知った。こんな自分でも愛してくれる人が居ることに。 そして自分もそんな彼に惹かれてやまない事に。 自分の間宮に対する感情がもはやただの好意ではないことは、シゲ自身が一番解っていた。 一緒に居て、彼の傍にいてそれだけで幸せな気分になれた。 けれど彼といると…間宮と一緒に居ると、シゲは言い様も無い性的衝動に駆られた。 男の自分が男の彼に対して感じるのは奇怪しいと解ってはいる。 けれど止められなどしない淫らな情念。 気付いた時には、自分の部屋では無いにも関わらず、間宮をベッドの上に押し倒していた。 間宮は困惑した表情こそ浮かべはしたものの、シゲの行為を拒絶はしなかった。 ただ目を閉じて好きにすれば?といったふうの間宮の態度に、一気に熱が冷めるのを感じた。 ごめんと何度謝ったか知れない。 間宮は別に構わないと繰り返すだけで、シゲには間宮の本心は伺い知る由も無かった。 何で間宮は自分を責めるでもなく、怒るでもなく…そして、そんなことの後でも変わらず 自分に接してくれた。 そんな相手に、自分が惚れ込んでいるなんてひをみるより明かで。 シゲは間宮に告白したのち、段階を踏んで今度こそ本当に間宮と繋がった。 その時の感動は計り知れない。 この人が居なくなるなんて考えただけで気が狂いそうだった。 なのに…自分なら幾ら撃たれても間宮を助けられたなら、きっと全然痛くなかった。 でも。 今は死にそうなほど心が痛い。 なんで自分が生きて、愛しい人はこの世にいないのか? 貴方さえ居れば他には何も要らなかったのに。 大切な人が消えた時、その人が自分にとってどれだけ大切だったかなんて他人には解らない。 けれど、痛みなんてきっと考えるよりも先に、心は瑕ついている。 心なんて何処に有るかもわからないのに。 そもそも人の感情が何処から来るかなんて解らないのに。 それでも痛いと感じる。 心が辛いと…苦しいと…痛いと悲鳴を上げている。 なんで助けてくれないの? 誰も僕を助けてくれないの? こんなに心が痛いのに。 間宮が死んだ。 その事実だけで十分だった。 シゲが人を殺す理由は。 痛くて痛くて仕方なくて。 大切な者を奪われた人間の気持ちは痛いほどよく解る。 でも。 頭では理解出来ても、心は納得できない。 だから、残された者の辛さが解っていても、シゲは奪わずにはいられない。 狂わずには居られないのだ。 この狂った世界に愛しい人を奪われたシゲには。 それだけで事足りる。 タイギメイブンを果せる。 それだけでこの狂ったゲームに乗る理由にナル。 愛しい人よ。 貴方はこんな僕を赦しては下さらないでしょうね。 けれど。 貴方が居ないこの世なんて要らないのです。 貴方が居ないこの世なら、『殺しても構わない』 こんな世界無くなってしまえばいい。 もう僕には何も要らない。 貴方じゃないなら。 ──────────────────── 後書き 今回短いですがのりはよく書けました。 結構、こういう感情持っている人間何ですよ。 もし私だったらってことで。 それにシゲって滅多な事では私の書く話では 狂わない人なので…今回は早すぎるまみやん の死を悼んで。 で作中シゲの心情とおぼしき文なのに『僕』 という一人称が使われているのは結構引っかかりも ありますが詩の流れ的にどうしても『僕』のが語呂 がよかったモノで(汗) |