『人知れず向かいあう』

第7話 もう覚えていなくてもいいから。


もう俺の事覚えて無くていいから。忘れてイイから。
だからな?佐藤。お前だけは、幸せに………。
ただ幸せに成ってくれたら。
それだけが、俺の望みだから。

「マムシ」
じゃりっ。人の足音がする。
顔を上げると、必死の形相で佐藤が俺を見下ろしている。
あぁ、良かった。佐藤。お前は無事だったんだな。
「…よかっ…た…」
それだけでいい。
俺、今凄く幸せだから。
お前が生きていてくれるなら。それだけで。
「間…宮?」
そう聞こえた気がした。
佐藤の信じたくないというような声が。
俺が死んでもお前が生きていてくれるなら、辛くは無いから。

『俺、幸せだよ。今凄く、だから…佐藤も幸せになって…』
心の中で呟かれた間宮の言葉はシゲに伝わることは無かった。


シゲは信じられないように彼を見下ろした。
「……っでや?………何でなん?」
シゲは膝をつき、しゃがみ込む。
間宮の頬に触れてみる。でも、体温がどんどん失われて行くのが如実に解り辛いだけで。
(…よかった?何がええん?…何で俺なんか庇うん?)
「……シゲ?」
(なんでや?俺はお前と共に生きて生きたいんや。せやのに…)
間宮の体を抱き起こし、立ち上がったシゲに不審気に直樹が声をかけた。
「なんや?ナオキ」
(ごめんな、直樹。せやけど今はダメ何や。お前でもきっとこの手にかけてしまいそうやねん。
マムシが死んだんや。それだけで今は誰を殺す理由に成る)
シゲは振り返らず、怒気をはらんだ低い声でそう言った。
「どこいくんや?」
「地獄や。お前は来るんや無いで。死にたなかったらな」
(お前だけはこの手で殺したくはないねん。それだけは解ってや。勝手な願いやけど)
静に去って行くシゲの姿にただどうすることも出来ずに直樹は立ち尽くした。





覚えていなくていいから。俺のこと忘れていいから。
ただ幸せに……それだけが、俺の望みだから。
決してお前の為じゃない。解っている。これは俺の自己満足だから。
でも、それでも、好きな人が幸せになってくれたら。
考えずにはいられないんだ。ずっと好きなんだ。
例え俺は死んでも。お前には生きていて欲しいんだ。
さよなら、佐藤。もう逢えないけれど。でもいいんだ。
だって俺、お前のこと好きになって幸せだったから。
過去形でしか言えないなんて切ないけど。
ただ、それでも。
幸せだった。お前と居られて。お前が俺のこと好きだと言ってくれたから。
なぁ、お前は幸せ?




お前は幸せになってくれますか?



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